令和3年5月3日 「説経浄瑠璃楽譜集(1)」の刊行ーー若太夫日記

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『説経浄瑠璃楽譜集(1)』発刊にあたって                         

 説経浄瑠璃若松会 若 松 若 太 夫

説経浄瑠璃(説経節)に接して、先代に入門したのが、平成元年(1989)ですからもう四半世紀以上も昔の話になります。入門して最初にお稽古する曲が「御祝儀宝の入船」です。いわゆる御祝儀曲ですが、きっちり演奏すると約15分かかる初心者には難しい曲です。

 稽古はまず台本作りからはじまります。先代が「御祝儀」の詞章を口ずさむのを書き留めて、家に帰って清書します。半紙一枚で二頁分とします。一頁あたり五行ないし六行で詞章を毛筆で書き節(フシ)の印を朱墨で振り、表紙を付け綴じて完成です。つぎは読みの稽古になります。台本を素読みし抑揚が違わずにすらすらと、流れるようになるまで読み込む練習です。それが形になってくると、語りの稽古に入ります。師匠が付けてくれる爪弾きの三味線に合わせて、語りの節廻しや間を少しずつ学んでいきます。悪いとその都度指摘され、直しては語るの繰り返しで、それが師匠の許しが出るまで続きます。一段あげるまでに相当時間がかかります。基本的には相向いで、マンツーマンで行うのが伝統的な稽古方法なのです。

 平成5年頃から板橋区立郷土芸能伝承館でお稽古をさせていただく様になり、当時の同好会の皆さんに説経節を指導する立場となりました。しかし従来の伝習方法には一理も二理もあるものの、もともとマンツーマンの稽古を前提としたもので、数人のキャリアの違う皆さんに説経節を学んでもらうには、なじみずらいと感じてきました。しかし幸い同好会の髙澤穣さんが三味線譜を制作され、長い間それを使用しつつ、語りと三味線の稽古を続けてきました。

 多様化の時代といわれる昨今ですが、説経節のような古典的な芸能を稽古してみたいと思う人も少なくなり、また志す人があってもそのキャリアや目指すところもまちまちなのが現実です。稽古する皆さんがよりどころとなる教本があれば、それらの間隙(かんげき)が少しでも埋められるのではと知恵を絞り、語りの旋律と三味線の奏法の併記がもっとも効果的と考え、この楽譜集に至った次第です。

 関係各位のご助力により、旧知の大島純子さんにお願いして採譜を進めていただきました。しかし作業を進めるうちに実際の演奏をそのまま採譜しても、教本には適さないことが判りました。それからは節(フシ)も三味線もその基本型を探り出して記していきましたが、それには相当の時間がかかりました。無理なお願いにも関わらず大島さんは何回となく伝承館に足を運んで、基本型の確定にお付き合いいただきました。そしてようやく基本的な語りと三味線をミックスした楽譜集が完成いたしました。

 これからこれを稽古の場で試して、よりよいものへと改善しつなげていきたいと思います。また学校教育、社会教育等あらゆる学びの場で活用を模索していただければと思います。説経節の基本を採譜しますと、どこかしら語りの旋律が歌謡のように聞こえます。もともと説経節の原型である説経祭文には歌謡的要素もあったようです。「説経節を歌う」という試みも成立するかもしれません。どうかお手に取られた皆様、活用につきましてご助言いただきます様お願い申し上げます。

 最後になりましたが、この度の発刊につきまして採譜にご尽力いただきました大島純子さん、また種々ご指導をいただきました、さいたま民俗文化研究所の大舘勝治所長、採譜について練習室をご提供いただいた板橋区郷土芸能伝承館をはじめ、ご指導ご協力いただきました多くの皆様に御礼を申し上げる次第です。

※希望があれば実費にて頒布します。メールアドレスwakatayuu@ozzio.jpまでご連絡ください。

  

                                                  

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